埼京線は今日も今日とて、
突然の車両トラブルに泣きながら何とか対応をしていた。
振替依頼をし、
後に同僚の宇都宮線から言われるであろう嫌味を想像しながら、
それでもなんとか通常ダイヤに戻すべく、頑張っていた・・・が。
「もぉーーー!!振替え依頼をお願いしてるのに!!
通常運行の時よりお客さんが多い気がするんだけどーーー!!」
目に涙を浮かべつつ叫んでいたら、ある駅員が息を切らせながら教えてくれた。
『東武東上線にて人身事故発生』
振り替え依頼先にて人身事故・・・。
埼京はポカン、と口を開け、あの寡黙な路線を思い浮かべていた・・・・。
東上線はようやっと人身事故の処理が終わり、
どうにかこうにか通常ダイヤに戻ろうとしていた。
しかし、運命の悪戯とでも言うのか、
東上線では一度事故が起こると、
無限ループのように事故が立て続けに起こってしまうのだ。
もうしばらくは事故が起こりませんように、と、祈っていたその時だった。
身体にものすごい衝撃が走る。
次の瞬間にはオレンジのつなぎが真っ赤に染まり、
東上は半ばボーゼンとしてしまう。
ああ、今月は本当についてない。
クラクラする思考を何とか奮立たせ、東上は現場へと向うのだった。
『東武東上線にて人身事故発生』
池袋駅にて、有楽町線はその知らせを聞いたときに、何かの間違いだと思った。
だって今日は既に人身事故が起きていたからだ。
だからそれを知らせに来た駅員に「え?」と確かめてしまう。
「それ、本当?」
目をパチクリさせながら、確認の意味を込めて聞き返す。
すると渋い顔をした駅員は小さく縦に頷き返してきた。
東上線中央改札まで歩いていけば、確かに東上線は乗客でごった返していた。
こりゃ、ガセじゃないな、と確信したとき、
JRの中央改札から自分と同じ髪の色をした青年が現れる。
「あ!ゆーらくちょー!」
「!埼京・・・・」
そういえば埼京も車両トラブルで遅れてたよな、と思い出しながら、
有楽町も手を振り返した。
「有楽町も東上の振替?」
「うん、そう。その前に東上の様子を見ようかと思って・・・」
「あー・・・、今日は2回目だもんねぇ・・・東上」
「そうだな・・・。あ、埼京の振替中に1回目が起きたんじゃないのか?」
「そうなんだよねぇ・・・。おかげで遅延してる僕が振替したんだよ!」
「ははははは・・・・(それ、東上の前では言うなよ~?)」
「で、また2回目でしょ?
東上は強いけど、弱いから僕も心配になって様子を見に来たんだ」
「・・・・強いけど、弱い?」
「東上ってさぁ・・、悪天候には強いけど、事故には弱いでしょ?
なんかそれって東上の性格にも反映されてるなぁ・・・って」
「・・・・!そう言われてみれば・・・」
「だから僕、時々心配なんだぁ・・・。
だからたまには僕が力になろうかと思ったんだけど・・・でも」
「?」
「有楽町が行くんなら、僕はお役御免かな?」
「へ?」
「だって有楽町と東上って『そう』なんでしょ?」
「・・・・っ・・、そそそそ、『そう』って??」
「へへっ!りんかいが言ってたよ!有楽町と東上は『そう』なんだって!」
「・・・・っ」
「あ、これポカリとお菓子」
「・・・え?」
「東上に!」
「あ、・・ああ・・・そっか」
「東上にヨロシクね?」
「う、うん」
「じゃ、僕はもう行くね~」
「あ!ちょ・・・・!行っちゃった・・・・。
しかし東上とのことは上手く隠してたつもりなのに、
りんかいはやっぱり侮れないなぁ・・・・」
有楽町は頭をポリポリかきながら、
受け取ったポカリとお菓子を持ちながら東上線改札へ向かうのだった。

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